| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S08-5  (Presentation in Symposium)

動物園動物における人獣共通感染症とバイオセキュリティ-野生動物を守る意外な接点
Biosecurity of zoonoses in zoo animals - unexpected contact to protect wildlife -

*福井大祐(岩手大学)
*Daisuke Fukui(Iwate Univ.)

 近年、動物園の飼育動物が野生動物や人に感染して致死的になり得る高病原性鳥インフルエンザや重症熱性血小板減少症候群を発症して死亡している。  
 世界の動物園は、種の保存上、最重要10課題の一つに「感染症、人と動物の共通感染症とバイオセキュリティ」を挙げている。希少種含む飼育動物を生息域外個体群として持続的に維持することは保全上重要である。そのため、適切に健康管理し、スタッフと入園者の安全を守る上でも動物衛生・公衆衛生対策は重要課題であり、対象は野生動物・家畜・人に共通に感染する病原体にまで及ぶ。  
 動物園には、自然界との完全な境界はなく、病原体の園外からの侵入防止や予防医学プロトコールを含むバイオセキュリティ対策が日々実践されている。北米では、ウエストナイルウイルスの侵入以降、多くの動物園でカのサーベイランスや防除は一般的な対策となっている。一方、飼育動物の病原体の自然界への拡散も防がねばならない。また、動物園の敷地内で見つかる野生動物の保護個体や死体の検索は、地域の野生動物の病原体保有状況や感染症発生の監視によるリスクマネジメント、ひいては飼育動物の予防医学プロトコールの一部となる。2008-2009年冬に旭川地域で発生したスズメ(Passer montanus)の集団死事例では、一動物園の敷地内で保護された1羽が初発例となり、その検索から始まった疫学調査により、死因は人獣共通感染症でもあるサルモネラ症の流行によると究明され(福井ら、2014)、飼育動物も調査して健康管理に役立てられた。  
 動物園は、貴重な飼育動物と地域の野生動物を守るため、『野生動物感染症情報ネットワーク』と『野生動物・家畜・人の共通感染症に対する早期警報システム』を含む感染症のサーベイランス拠点かつ保全医学を実践するワイルドライフヘルスセンターとして機能し、地域の生態系保全を通じてOne Healthへ貢献しうる。


日本生態学会