| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S08-6  (Presentation in Symposium)

シカ密度管理による感染症リスク低減―島根県の事例―
Challenges of zoonotic risk management by means of population control of sika deer in Shimane

*田原研司(島根県)
*Kenji Tabara(Shimane Pref.)

 現在、日本国内で感染し、患者報告のあるダニ媒介感染症は、ウイルスによる重症熱性血小板減少症候群(以下、SFTS)、ダニ媒介性脳炎、細菌による日本紅斑熱、つつが虫病、ライム病、野兎病、Q熱および赤血球内寄生原虫によるヒトバベシア症などが知られる。
 島根県においては、症例数の多い順に日本紅斑熱、つつが虫病およびSFTSの患者が報告される。そのうち、日本紅斑熱は、1987年に初めて患者が確認されて以降、2018年12月末までに192例の報告があり、その多くが島根半島西端に位置する弥山山地(森林面積;6,162ha)に集中している(141例;73.4%)。
 島根半島には、弥山山地を中心に野生のニホンジカ(Cervus nippon)が多数生息しており、病原体(Rickettsia japonica )の媒介マダニの一つであるフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis )の主な吸血源動物となっている。また、かねてより、弥山山地における日本紅斑熱の発生とニホンジカの生息数との関連性が推測ながら示唆されている。
 一方、島根県は、弥山山地の二ホンジカによる農林業被害対策として、1995年頃から個体の密度管理に取り組んでおり、特に、2003年以降に策定した第二種特定獣(二ホンジカ)管理計画(Ⅰ~Ⅳ期)による生息数の把握とコントロールのほか、ヒトの生活圏(住居周辺や耕作農地等)へ侵入を防ぐ柵の設置などの諸対策を進めている。その結果、弥山山地のニホンジカの推定生息数は、2000~2008年にかけて4,000頭前後であったが、2011年に3,000頭を、また2014年に2,000頭をそれぞれ下回り、さらに2018年には916頭まで減数した。
 これに対し、弥山山地で報告される日本紅斑熱の患者は、2000~2008年にかけて毎年2~14例(平均9.7例±3.3, 中央値11)であったが、2014~2018年にかけては1~7例(平均3.2例±2.4, 中央値2)に減少した。
 そこで、弥山山地に生息するニホンジカの密度管理による日本紅斑熱の発生リスク低減の影響について、疫学的な視点から評価する。


日本生態学会