| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S10-3  (Presentation in Symposium)

森林フェノロジーの多様性:異なる気候下での多種の季節変化をどうやって比較するか?
Phenological diversity in forests: how can we compare multi-species seasonal changes under different climates?

*永濱藍, 佐竹暁子, 矢原徹一(九州大学)
*Ai Nagahaam, Akiko Satake, Tetsukazu Yahara(Kyushu University)

 植物の展葉・開花・結実フェノロジーは1960年代頃から生態学者たちを魅了し、熱帯や温帯など広い範囲で研究されてきた。季節性が不明瞭な湿潤熱帯では、多様な分類群の一斉開花現象が数年に一度の乾燥・低温によって誘発されること、季節性がある温帯では日長と気温の変化に応じて毎年開花する種と、繁殖に要する資源の貯蓄量に応じて豊凶を示す種が存在することが明らかにされた。しかし、多様な生活史をもった植物種を対象に群集レベルでフェノロジーを観測した研究はほとんどない。
 そこで、本発表では、まず定量的な記述手法によって、群集レベルで開花フェノロジーを調査した2つの例を紹介する。最初の研究例では、温帯の里山環境で、木本・多年草・一年草の開花フェノロジーを比較した。この比較では、種・個体の開花期間、個体の開花期間の分散と同調性、開花個体数の変動を示す歪度と尖度、開花開始日の分散の7つを、開花フェノロジーを示す指標として考案した。その結果、一年草よりも木本の方が、個体の開花期間の分散が小さいことで、種の開花期間が短くなることが明らかになった。次の研究例では、ベトナムの季節性熱帯山地林で、5地点(標高1460–1920m)の優占樹種20種5個体ずつの展葉・開花・結実フェノロジーを比較した。その結果、乾季の始まりに展葉・開花し、雨季後半に結実するフェノロジーが確認された。しかし、1年の観察で、各地点の優占樹種20種のうち7–15種は、開花も結実も観察されなかった。
 これらの結果を比較すると、季節性熱帯山地林では、季節性があるにもかかわらず毎年開花していない種が多い。また、温帯では春先に展葉する種が多い一方で、季節性熱帯林では乾季に展葉する。今後は、熱帯・温帯で定量的なフェノロジーデータを得て比較していき、群集レベルでの理解を深めることが課題である。


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