| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S12-3 (Presentation in Symposium)
近年、遺伝的に分化した集団間の交雑がゲノム変異の新たな組み合わせを創出し、多くの種分化に寄与したことが明らかになってきた。特に、染色体数の倍化を伴わず交雑によって新たな種が生まれるHomoploid Hybrid Speciation(同倍数体雑種種分化)と考えられる例は、ゲノム解析技術の発達も相まって、多くの分類群において見出されている。この雑種種分化に至るプロセスを浮かび上がらせるために重要なのは、その起点となり得る集団、すなわち、遺伝的に分化した集団間の交雑帯で生じた集団の特徴を、ゲノムレベルで調査することである。そこで我々は、遺伝的に大きく分化したアゴハゼの太平洋グループと日本海グループの交雑集団の全ゲノム解析を行い、そこでの進化の実態について研究している。de novo ゲノムシーケンスによってリファレンスゲノムを構築した上で、各グループと岩手県の田老に存在する交雑集団のゲノム構成を、全ゲノムリシーケンスとRAD-seq、エキソームシーケンス、全ミトコンドリアゲノム(ミトゲノム)シーケンスによって調査した。その結果、田老の全ての交雑個体のゲノムは約50%の混合比で各グループ由来である一方、多くのゲノム領域が片方のグループのゲノムに偏っているモザイク的な構造を有していることが示された。また、この交雑集団の個体が有するミトゲノムのコード領域において、アミノ酸を変化させる非同義置換が多く生じていることが明らかになり、この変異は核ゲノムのミトコンドリア関連遺伝子との不和合によって生じた可能性が示された。これらの結果から、交雑によって生じたゲノムの新たな組み合わせが、交雑集団におけるミトゲノムの加速進化を引き起こしたと考えられた。