| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S12-7  (Presentation in Symposium)

日本産イトヨ類の平行的淡水進出の集団ゲノミクス
Population genomics of parallel freshwater colonization of Japanese threespine stickleback

*山﨑曜, 北野潤(国立遺伝学研究所)
*Yo Yamasaki, Jun Kitano(NIG)

異なる環境に分布する集団間の遺伝子流動が平行進化に与える影響を解明することは,進化ゲノミクスにおける重要課題である.トゲウオ科魚類のイトヨは,海と川を行き来する回遊型から,淡水域に残留する淡水型が北半球各地で平行進化したこと,全ゲノム参照配列が解読され,ゲノム領域ごとの遺伝子流動パターンが検討可能であることから,この課題の良いモデルである.欧米のイトヨ集団では,淡水環境で有利な変異が回遊型との遺伝子流動を介して別の淡水集団に伝搬することによって,さらなる淡水型の成立に貢献したことが知られる.このようなメタ集団構造が急速な平行進化の基盤となっている.いっぽう日本では両型は基本的には異所的に分布し,現在は自然に交雑する機会がほとんどない.興味深いことに,ある形態形質の適応進化において,欧米では異なる淡水集団間で共通の変異が利用されているが,日本では淡水型で新規に生じた変異が貢献したことが示されている.このような遺伝子流動がない場合に,ゲノム分化がどのように進行するかはよくわかっていない.そこで我々は,日本の回遊型と淡水型は異所的な分布のために遺伝的変異を共有せず,新たに生じた変異が淡水型の平行進化に貢献した可能性を検討した.まず集団動態解析から,日本の淡水型は独立に何度か分化しており,型間の遺伝子流動量は非常に小さいことが確認された.次に淡水進出年代が異なる複数の集団と回遊型のゲノム分化を調べたところ,日本の集団では淡水進出年代に応じて分化が大きくなっており,またゲノム領域間で分化は比較的均一であった.最後に日本の淡水集団間,また日本と欧米の淡水集団間で,淡水適応に共通の変異がほとんど使用されていないことが示されつつある.以上から回遊型との遺伝子流動の有無により,淡水型平行進化の遺伝的な仕組みが変化しうることが示唆された.


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