| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S14-5 (Presentation in Symposium)
野外生態群集は原核生物・真核微生物・無脊椎動物など様々な分類群の生物の集合体である。野外生態群集の動態はそのような多様で無数の生物および環境の間の相互作用によって駆動されている。近年、DNAシーケンス技術が飛躍的に発展し、野外における生物群集情報の網羅的取得が比較的容易になった。このようなDNAの網羅的解析技術を野外生態系研究に適用することでこれまでになかった発見が次々となされている。本発表では、2017年に野外実験水田から経時的に取得した水サンプルに対して網羅的DNA解析技術を適用し、イネとともに野外で共存する生態群集の時間動態を調べた研究を紹介する。水サンプルはイネの生育期(5月23日から9月22日)に1日1回の頻度で5つの実験水田から取得した。それら全てにおいて16S rRNA・18S rRNA・ITS・COI領域といった原核生物・真核生物・真菌・動物のバーコーディング領域の配列を定量的に解析し、合計8800万本の配列から1万種以上の生物を検出した。得られたデータをDNA濃度や時系列の持つエントロピーを基準にフィルタリングし、合計1002種の生物とイネの成長データを非線形時系列解析によって解析した。その結果、以下の3つを主な結果として得た: (i) 実験水田の生態群集ネットワークは時間的に大きく変動し、このことはネットワークを制御しようとしたときには「制御するための適切なタイミングがある」ことを示している、(ii) イネの成長予測において野外生態群集の時系列情報を加えることで予測精度の向上が達成できた、(iii) 野外生態系においてイネの成長に影響を与えうる366種の生物を特定した。本発表ではこれらについて紹介し、野外生態系を理解するための「網羅的生態時系列アプローチ」の可能性を議論したい。