| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S17-1  (Presentation in Symposium)

全国湿地データベースの必要性とその利活用
Necessity and utilization of national wetland database

*冨士田裕子, 李娥英(北大・北方生物フィ)
*Hiroko Fujita, Lee Ahyong(Hokkaido University)

 湿地生態系の急速な荒廃・消失に対して、各国では近年、保護・保全の基盤データとなる湿地目録が整備され、さらにGISを利用したデータベース化が進んでいる。たとえばアメリカではUS Fish and Wildlife ServiceがNational Wetlands Inventoryを作成・公開し、湿地への理解と保全や再生の促進に貢献している。またアメリカ環境保護庁は、2016年に湿地の現状評価を報告している。日本においては、環境省がまとめた第5回自然環境保全基礎調査 湿地調査(1995)の湿地一覧とGISデータが、生物多様性センターのサイトで公開されている。しかしながら、このデータは都道府県からの情報提供をまとめたものであるため、個々の調査精度が一定ではなく、データ不足の地域が残されるなど、課題も多い。また、その後四半世紀の間、新たに日本全国の湿地データベースは整備されていない。湿地の喪失・変化は近年も進行しており、最新情報を整理し、今後のデータの受け皿となるデータベースが必要である。
 そこで我々は、既存の湿地目録情報の確認作業に加え、全国の湿地に関する植物相や植生の文献や報告書を収集し、3つのデータベース(以下、DBとする)の作成を開始した(1.湿地植物文献DB:全国の湿地植物相・植生の文献・報告書のリスト、2.湿地植物DB:収集した湿地文献に掲載された植物のDB、3.湿地目録DB:全国の湿地目録)。これらが整備されると、湿地の分布状況の地図化、保全優先湿地の抽出、他のGISデータと組み合わせた湿地とその周辺地域のリスク評価、保全状況や健全性の評価などができるようなる。
 一方で、湿地DBを湿地の保全につながる評価解析に利用するためには、DBの更新と質的向上が必須で、それを行政と研究者が一体となって支える体制構築が課題となっている。


日本生態学会