| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S17-2 (Presentation in Symposium)
水生植物には,とりわけ絶滅危惧種が多く含まれ,その保全のために生育状況や環境のモニタリングが求められている生物群である.しかし,水生植物は生育環境が水中であるゆえに直接観察や採集などのデータ取得が容易でなく,陸上に生育する植物を対象に使用される一般的な調査手法が適用できないことも多い.そのため,これまで専門家や植物愛好家が独自に考案した道具や手法によって調査が行われてきた.個々の研究間で結果を相互に比較し,より広域的・総合的な研究を行うためには,標準的な調査手法が必要である.そこで本研究では,止水域における水生植物相の調査手法の一般化と効率化を目的とし,複数の湖沼・ため池において現地調査を行い手法を評価した.
止水域の面積や環境によって得られる結果が異なるか調べるため,大型湖沼(山梨県河口湖,548ha),小型~中型湖沼(新潟県上越市の3湖沼,5~20ha),小型のため池(新潟県上越市の19のため池,0.01~0.2ha)を調査対象とした.現地調査では,国内の水生植物調査でよく行われている湖岸の踏査と,錨型の採集器の投擲を行い,確認できた水生植物を記録した.また,水生植物相をひと通り把握するために必要な努力量(定点数,採集器の投擲回数,踏査距離など)を見積もるため,各投擲回や踏査区画ごとに細かく出現種を記録した.
その結果,いずれの湖沼・ため池においても,定点調査よりも踏査の方が,確認種数が多かった.一方で,車軸藻類を代表に,踏査だけでは確認できない種類も一定数みられた.以上から,水生植物相を効率的に把握するためには,踏査を中心に行い,これを補完するために湖内の定点調査を行うことが望ましいと結論した.加えて,努力量と出現種数の関係を調査データよりシミュレーションした結果と,それにより示唆された湖沼・ため池における最低限必要な努力量について議論したい.