| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S17-3 (Presentation in Symposium)
資源・労力に限りがある中で効果的に保全活動を行うには,統一的な基準による評価・検証に基づいた保護区の選択や保全効果の検証・評価・再計画が不可欠である.湿地環境は多様な生態系サービスを提供する保全の必要性が高い環境の一つであるが,我が国には統一的に湿地を評価するための評価基準がなかった.そこで本研究では,国内の湿地を評価するための基準の一つとして,水生・湿生植物チェックリストを構築した.
既存の植物相・植生データを活かした評価・検証のためには,複数の情報源のデータを一括して扱う必要がある.そこで,和名統合のためのツールとして,GreenList ver 1.01 (Ito et al. 2016, Ebihara et al. 2016),『改訂新版日本の野生植物1~5』(大橋ほか 2015~2017),『日本産シダ植物標準図鑑1, 2』(海老原 2016, 2017),『Ylist』(米倉 未発表)に掲載されたすべての和名をデータベース化した.これによって和名を統一的に扱い,異名からでも水生・湿生植物チェックリストへリンクすることを可能とした.
水生・湿生植物チェックリストでは,国内の維管束植物9,682種類を評価対象とし,各種図鑑の記載を元に,水生・湿生植物(沈水・浮遊・浮葉植物202種類,抽水植物111種類,湿生植物566種類)を抽出した.残りは,その他の生育環境の情報が得られた非水生・湿生植物(5,680種類)と記載が不十分だったため評価できなかったもの(3,123種類)となった.環境変数が既知の植物群落データを用いて検証した結果,より湿生な環境ほど多くの構成種が沈水~湿生と評価され,このチェックリストが水生・湿生植物の判定基準として機能することが示された.今後は検証と精度向上の検討を進める予定である.