| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム S17-6 (Presentation in Symposium)
湖沼生態系は、内水面漁業や用水の提供など人間社会に欠かせない機能を果たす一方で、過剰な採取や、流域からの栄養塩負荷など強い人為影響にさらされており、生物多様性の観点から、最も脆弱性の高い生態系の一つである。さらに気候変動は、湖沼生態系に対して今後大きな影響を与えることが予測されている。たとえば、気温上昇は、表層水温の上昇と底層貧酸素水塊の増大を引き起こし、湖沼内の生物群集の存続可能な領域を狭める可能性がある。また、降雨パターンの変動は栄養塩負荷の増大を招き、湖沼内の生態系に影響を与える可能性がある。このような広範に生じる環境変動に有効な対策をする上では、湖沼内の生態系の動態の理解にとどまらず、流域全体での人の生態系の利用(生態系サービス)と湖沼生態系の関係性の解明や、それにもとづいた、流域の生態系サービスの利用戦略を考える必要がある。
本研究では、霞ヶ浦流域をモデルケースに、流域における人々の生態系の様々な利用(生態系サービス)の空間パターンの評価を行った。さらに、複数の生態系サービス間の関係性を分析し、共変関係にあるサービスセットやトレードオフ的な関係性を示すサービスの組み合わせを明らかにした。特に、典型的な供給サービスである農業生産と調整サービスである水質との間には、流域全域でみると強い負の(トレードオフ的な)関係が認められた。一方で、個別の地域(小流域)単位では、農業利用と水質の間の負の関係が比較的弱い場所も存在した。詳細な土地利用の比較および水質の現地調査の結果、このような小流域は、ため池等の小規模水域が占める割合が高いこと、また、上流の湧水では高い窒素濃度が、ため池等の水域を経由し流出する際には、ごく低濃度になることが確認された。この結果は、小規模湿地やエコトーンの創出が、流域の利用と負荷のトレードオフ関係の緩和に有効である可能性を示している。