ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-176
*寺林暁良(北大・院・文),竹内健悟(浪岡北小)
青森県岩木川下流部ヨシ原は、オオセッカ(Locustella pryeri)などの希少種をふくむ多様な生物のハビタットであり、国土交通省の「河川生態学術研究会」の調査対象地にもなっている。その一方で、当ヨシ原では地域住民による利用が続けられており、刈り取り・火入れといった攪乱によって成立した「二次的自然」であるといえる。そのため、当ヨシ原では生態学的な調査を行うと同時に、ヨシ原利用にかんする社会システムの調査も行い、生態系と地域社会の両面を考慮した保全活動を行う必要がある。
発表者らは2004年からヨシ原を利用する地域住民らへの聞き取り調査を行ってきたが、これにより次のような課題がうかびあがってきた。第一に、ヨシ原は、ひとつづきの景観にみえるが、近隣大字ごとに利用権の境界があり、利害関係が生じるような一括した管理が行えないことである。第二に、火入れ管理をめぐっては、資源更新のために火入れを行いたいヨシ原利用者と降灰などの被害をうける近隣住民のあいだで対立があり、保全活動を進めるうえでは両者の利害を同時に克服しなくてはならないことである。第三に、資源利用の概念をふくむ「保全」であるが、地域住民には人為的影響を排して特定種をまもろうという「保護」の概念と混同されているきらいがあり、生態学の保全概念が地域社会に理解される必要があるということである。第四に、「ヨシ産業」が衰退するなか、地元でもヨシ原利用にかんする認知度が落ちているということである。
このような課題から、今後地域住民と協力してヨシ原の保全活動を進めていくうえでは、地域住民とあいだで協議の場をもち、相互理解を深めていく必要があることが示唆された。