ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-185
柿沼 薫(東大・農・生物多様性), 高槻 成紀(麻布大・獣), ジョンジン チュルーン(牧民)
乾燥地における放牧地の持続的管理のため、牧民の伝統的知識を応用しようと注目されている。近年放牧圧の増加が問題視されているモンゴルにおいて、放牧可能程度を表す植物種指標があれば土地管理に有効である。モンゴル牧民は「ナリン」とよぶ植物グループを土地評価の指標としている。モンゴル北部のブルガンで牧民に草地を評価してもらったところ、放牧圧が強いサイトでも、「ナリン」が存在していれば「良い放牧地」と評価した。そこで管理指標としての「ナリン」の有効性を検討するため、放牧圧の違う場所で植物生産量や栄養量を調査し、同時に牧民による草地評価との比較検討をおこなった。
調査地はモンゴル国の北西に位置するブルガン県に設定した。牧民40人に主な植物種について「ナリンであるか?」を質問した。回答者全員が「ナリンである」と答えた植物種は4種あった。放牧圧を水場の距離によって5段階設定し出現植物種、被度を測定した。群落は放牧圧が強くなるにつれて、優占種が直立型草本からロゼット型へと変化した。「ナリン」の中でCarex. duriusculaの被度は放牧圧が強くなるほど増加したが、他の3種は放牧圧による違いが見られなかった。家畜の採食を排除した実験柵内で、C. duriusculaを刈り取って回復を調べたところ、全ての個体が再生し高い回復力を示した。また、移動ケージにより植物生産量と刈り取った植物の粗タンパク質量を定量したところ、植物生産量と粗タンパク質量は放牧圧の強さによる違いが見られなかった。
以上の結果から、「ナリン」の中でも回復力の高いC. duriusculaを指標とする事で栄養量と植物生産量を落とさず利用できる事が示された。これにより、「ナリン」の土地管理における有効性が示唆された。