ESJ56 一般講演(ポスター発表) PA1-200
*持田幸良,赤瀬悠甫(横国大・教)
神奈川県箱根仙石原の台ヶ岳北斜面に広がるススキ草原は、かつてカヤや家畜の飼料、田畑の肥料などのために草刈場として利用され、草刈りや火入れが毎年行なわれていたが、1970年を最後に管理が放棄された。しかし1989年にススキ草原の復元と保全のために火入れが再開され、毎年3月に火入れが実施されて20年間が経過した。
1989年当初より「火入れ管理によるススキ草原の動態」をモニタリングしており、20年間の火入れ効果と気象の影響を考慮し、以下の6項目について評価した。
(1)出現種数は、大幅に増加し、特に草本種で顕著であった。方形区(9m2)ごとの平均出現種数は、火入れ開始から10年間は増加傾向(R2=0.91)が続き、その後は微増となった。
(2)種組成は、微地形の影響を受け、湿性の立地に生育する種が増加するなど、多様な種組成となり、群落型が増加した。
(3)ススキの出穂数・出穂率では、出穂数は火入れ回数(時間経過)よりも夏日の日数と強い相関(R2=0.81)が認められ、出穂率も同様に夏日が多いほど出穂率は高くなった。
(4) ススキの稈高・稈数では、稈高は気象よりも時間経過との相関が高く,火入れ回数が増すほど稈高が低下し、稈数は前年の夏日が多いと減少する傾向にあった。
(5)ススキの地上部現存量は、火入れや気象との明瞭な相関が認められなかったので、稈数と1稈あたりの乾重量とで解析したところ、共に天候による影響の方が大きかった。
(6) ススキ以外の植物現存量は、夏日が多いと増加する傾向があった。
以上の結果から、ススキ草原維持のための火入れの効果は、出現種数の増加と種組成の変化および出穂数の増加をもたらした。それらは時間経過と共に安定化する方向に向かっているが、火入れを継続していることで稈高や稈数は低下し、出穂数もまた火入れよりも天候から受ける影響が顕著となりつつある。