ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-221
*高橋一秋(長野大・環境ツーリズム),高橋香織(信州大・遺伝子),柳貴洋(長野大・環境ツーリズム),鷲谷いづみ(東京大院・農学生命)
「クマ棚」とは、ツキノワグマが樹木に登って主にナラ類堅果を採食した際に折られた枝が積み重なり樹上に形成される枝の塊のことをいう。クマ棚が形成されると林冠部分の環境が大きく改変され、林冠ギャップが形成されることがある。本研究では、クマ棚のある樹木を介したツキノワグマと下層植物の間接効果を明らかにするために、クマ棚の形成に伴う林冠ギャップの創出がその下の光環境を改変し、下層植物の結実に影響を及ぼすかどうかを分析した。
長野県軽井沢町長倉山国有林内のミズナラ成木を対象に、クマ棚のある樹木とない樹木を20個体ずつ任意に選定し、樹木下の開空率と液果植物および堅果植物の結実状況を階層別(地上から0.5m、2m、5m、樹冠下、樹冠中、樹冠上部)に調査した。開空率は2007年夏に撮影した全天空写真より算出し、下層植物(調査木を中心に半径5m以内)の結実は2008年秋に調査した。
クマ棚のある樹木とない樹木で、その下の開空率を比較したところ、林冠より下の階層では有意な差が認められなかったものの、樹冠中の開空率はクマ棚のある樹木のほうで有意に高い値を示した。結実が確認された植物は、クマ棚のある樹木の下で20種100個体、クマ棚のない樹木では10種49個体であった。ヤマブドウ、サルナシ、ミズキを含む10種はクマ棚のある樹木の下のみで結実していた。結実植物の個体数と結実率は、地上から5mの高さと樹冠上部の2つの階層で、いずれもクマ棚のある樹木のほうで有意に高くなった。したがって、ツキノワグマによる林冠ギャップの形成は、林冠上部の光環境を改善し、その間接効果として、クマ棚下の植物の結実に影響を及ぼすことが示唆された。