ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-224
*稲富佳洋,宇野裕之,車田利夫(北海道環境研),高嶋八千代(北教大釧路),鬼丸和幸(美幌博物館)
「エゾシカ保護管理計画」では、エゾシカによる採食圧が植生に与える影響を指標化し、エゾシカ個体数管理の指標として利用することを検討している(北海道 2008)。一方、北米では、エンレイソウ属の平均高や繁殖個体の割合を指標として、森林生態系に与えるオジロジカの採食の影響を評価した研究例がある(Augustine and deCalesta 2003)。また、エンレイソウ属は北海道の全域に分布し、夏期にエゾシカが高い頻度で採食することが知られている(梶 1988)。本研究では、北海道阿寒地域のエゾシカ利用度が異なる3カ所において、1995年にエゾシカを排除した「囲い区」とそれに隣接する「放置区」を設置し、エンレイソウ属(オオバナノエンレイソウ、ミヤマエンレイソウ、シラオイエンレイソウ)の被度や個体群構造を比較調査することによって、エンレイソウ属に与えるエゾシカの影響を評価するとともに、エゾシカの採食圧を示す指標種としてのエンレイソウ属の可能性について検討した。
囲い区におけるエンレイソウ属の被度は、放置区に比べて著しく増加するとともに、他の植物種よりも安定した増加傾向を示したことから、エンレイソウ属は、エゾシカの採食圧に対して高い感度を有していることが示唆された。また、放置区では、開花個体や実生個体が囲い区より極端に少なく、エゾシカの利用度が大きい調査区ほど、エンレイソウ属の平均高や葉面積が小さくなる傾向が見られた。これらのことから、阿寒地域では、エゾシカの採食によってエンレイソウ属の種子繁殖が大きく制限されていること、エンレイソウ属の平均高や葉面積は、エゾシカ採食圧の指標として利用できる可能性があることが示唆された。