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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-226

栄養学的環境収容力に基づくニホンジカ(Cervus nippon)の生息地評価

*及川真里亜, 梶光一(農工大・連大)


現在、日本各地でニホンジカの採食圧による植生の荒廃が報告されている。林床に植物がほとんどない状態でもシカが高密度のまま維持されている地域は多く、一見すると食物量とシカの個体数の間にはフィードバックがないようにみえる。その理由として食物の量的・質的な変化に対してシカが食性を変化させ、あまり利用していなかった比較的低質な食物資源に依存するようになったことが考えられる。そのため、食物量とシカ個体数の間の関係を探るためには、これまで採食されないと考えられてきた質の低い食物資源にも注目し、良質な食物と低質な食物がそれぞれシカ何頭分の食物量になるのかという栄養学的な環境収容力を検討する必要がある。

栄養学的環境収容力を求めるためには、採食植物の現存量とシカの採食量を調べる必要がある。シカの採食植物は多様であるためその栄養価も様々であると予測できる。そのため、食物環境をまず質の良い食物と質の悪い食物の二つに区分し、食物の質の違いがシカの採食量にどのような影響を与えるのか、飼育シカを用いた実験で検討した。飼育飼料の質を変化させることによって栄養的に質の高い食物環境と質の低い食物環境を再現し、採食量に及ぼす影響を飼育シカの消化率と反芻行動の変化から明らかにすることを試みた。実験の結果、質の悪い食物を採食する場合は、反芻による摂取物の微細化に時間がかかるために消化管の充満を十分に解消できず、乾物摂取量が大きく制限されると考えられた。これらの結果から、食物環境が悪化して生息地から質の良い植物が消失した場合、低質な食物を採食することでシカの採食量は低下するため、より多くのシカ個体が存続できるという、一見矛盾するような可能性が考えられた。このことは、シカの採食圧により食物環境が悪化したにもかかわらず、シカが高密度状態を維持している現在の生息地の状況と一致する。


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