ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-253
*伊東宏樹(森林総研多摩),日野輝明(森林総研関西),高橋裕史(森林総研関西)
ニホンジカと林床植生が樹木実生の生存にどのような効果を及ぼしているかを解明するため、奈良県大台ヶ原において野外実験を実施した。2006年に、林分タイプ(針広混交林・トウヒ林)と林床植生(ミヤコザサ・スズタケ・スズタケ枯損跡・ツルシキミ)の異なる9カ所に方形区(20m×20m)を設置した。1方形区につき4カ所の実生調査プロットを設定し、それぞれについて2個の実生調査方形区(1m×1m)を設置し、うち1個にはシカよけの網を張った。2007年、林床植生の残っている方形区において、実生調査方形区内の半分で林床植生の刈り取りをおこない、2008年には残りの半分で刈り取りをおこなった。実生調査方形区内の樹木実生にマーキングし、その生死を追跡した。実生の生死(0:死, 1:生)を目的変数とし、シカ排除の有無(d, 0:排除, 1:非排除)・林床植生除去の有無(f, 0:除去, 1:残存)・樹齢(g)・これらの交互作用(d×f, d×g, f×g)を固定効果の説明変数、樹種・調査年・方形区/プロット/個体をランダム効果の説明変数とする階層ベイズモデルを作成し、マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法によりパラメータの推定をおこなった。その結果、d, f, d×gが負の、g, d×f, f×gが正の効果をそれぞれもっていると推定された。すなわち、(1)シカや林床植生の存在は実生の生存に負の効果を与えており、シカの負の効果は実生の成長とともに大きくなる、(2)樹齢があがると生存率が上昇し、林床植生のあるとその効果は大きい(発生直後の方が林床植生の影響を受けやすい)、(3)シカと林床植生は互いの負の効果を軽減するような交互作用をもつと考えられた。林床植生のタイプ別では、スズタケ枯損跡での生存率が高かった。