ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-256
川北篤*, 加藤真(京大・院・人環)
ホソガ科ハナホソガ属は、幼虫がコミカンソウ科植物の種子に寄生する種子食者であり、全世界の熱帯域を中心に500種以上がそれぞれに種特異的なコミカンソウ科植物を寄主としている。雌はコミカンソウ科植物の花に産卵するが、その際幼虫の餌となる種子が確実に生産されるように、口吻を使って自ら雄花で花粉を集め、雌花に授粉するという驚くべき行動を進化させている。一方コミカンソウ科植物は送粉をハナホソガのみに託しており、孵化したハナホソガの幼虫は必ず一部の種子を残して成熟するため、両者は互いに繁殖を依存し合った共生関係にある。
しかしながら、もし能動的に送粉することが雌のハナホソガにとってコストとなるならば、自らは送粉せず、他の個体が授粉した花に選択的に産卵する裏切り者(チーター)が出現してもおかしくない。実際ハナホソガと同様に送粉行動を持ち、ユッカ属植物の種子に寄生するユッカガ属では、チーターが2度独立に進化したことが知られている。今回我々は、ハナホソガ属の2つの系統において、能動的送粉行動が二次的に失われていることを発見した。一方は、アリによって送粉されているコミカンソウ科植物の一群に寄主転換を遂げ、発達途中の果実に産卵するようになったグループであり、もう一方は送粉行動を持つハナホソガと寄主植物上で共存し、つぼみに虫えいを形成するグループであった。しかしながらいずれの種も、他のハナホソガが授粉した花に産卵するチーターではなかった。ユッカガの寄主であるユッカ属植物は大型の果実を持つため、複数の幼虫が共存できるが、より小型のコミカンソウ科植物の果実では頻繁に幼虫間の競争が見られることから、ハナホソガ属では送粉行動を喪失する進化は繰り返し起こりやすいものの、チーター戦略は必ずしも適応的でない可能性が考えられる。