ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-275
*奥田 武弘,服部 努,成松 庸二,伊藤 正木(東北水研・八戸)
β多様性は、局所群集間における群集構造の変異や種組成の入れ替わりの程度を表している。β多様性のパターンとその決定機構を明らかにすることは、環境勾配や空間構造に依存した決定論的な群集構造決定機構を明らかにするための最も有効なアプローチの1つである。また、生態学的研究を行う際に空間スケールを考慮することの重要性に対する認識が高まるにつれて、局所(小スケール)と地域(大スケール)の両スケールにおける群集動態をつなぐ存在としてのβ多様性に対する注目が高まっている。しかしながら、これまでのβ多様性を扱った研究の多くは局所群集間の環境勾配や空間構造に関連した生態学的プロセス(ニッチ分割や分散制限など)が反映される空間的β多様性に集中しており、環境の時間変動や群集構造の浮動に起因する時間的β多様性はあまり調べられていない。本研究では、東北太平洋岸海域(N36°-N41°)における底生魚類群集を対象に、時間的・空間的β多様性の緯度に伴う空間変異を明らかにした。
(独)水産総合研究センター所属の調査船若鷹丸によって1997年から2007年にかけて行われた、着底トロール調査によって得られた底生魚類の漁獲データを解析に用いた。階層的に配置された調査デザイン(8地域×水深の異なる7地点×11年)に従って、時間的β多様性と空間的β多様性をそれぞれ算出した結果、両者ともに低緯度ほど大きくなっていた。海底の無機的環境(水温、塩分濃度)の時間的・空間的変動の大きさが低緯度ほど大きくなる傾向が見られなかったことから、β多様性の緯度勾配は、1)生物的環境要因(餌資源の量、相互作用の強さなど)の時空間変動、2)群集動態の確率論的浮動を介した地域群集構造の緯度に伴う変異の2つが反映されていると考えられる。