ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-278
*甲山哲生(北大・院理),松本和馬(森林総研・昆虫),片倉晴雄(北大・院理)
甲虫目ハムシ科に属するキクビアオハムシには種内に食草としてマタタビ科のサルナシを利用する集団(サルナシ集団)とエゴノキ科のオオバアサガラを利用する集団(オオバアサガラ集団)が存在する。両集団は関東以西で同所的に分布するが食草の利用能力に関して差異が見られる。
本研究では、本州のサルナシ集団のみが生息する2地点と両集団が同所的に生息する4地点から採集した計10集団の成虫個体とその幼虫を用いて、それぞれの食草に対する成虫の摂食受容性・選好性及び幼虫の生育能力に関する地理的なパターンについて調べた。その結果、成虫の摂食受容性に関しては生態的な分化が観察され、サルナシ集団はいずれもほぼサルナシのみを摂食するのに対して、全てのオオバアサガラ集団は両食草を摂食した。一方、各集団の幼虫はいずれもオオバアサガラよりサルナシ上で高い生存率(61〜84%)を示したが、オオバアサガラ上では、同所的な地点ではオオバアサガラ集団がサルナシ集団よりも高い生存率を示したものの地理的な変異が大きかった(オオバアサガラ集団において5〜70%)。また、これらの集団に対してミトコンドリアCOI遺伝子を用いた集団遺伝学的解析を行った結果、ハプロタイプは地理的にまとまり、地域間での遺伝的な分化は大きいが、各地点の食草の異なる集団間では遺伝的な分化はほとんど観察されなかった。
食性の分化が複数の同所的な地点において維持されていることから、サルナシ集団とオオバアサガラ集団は部分的に遺伝子流動が制限されたホストレースの初期段階であると考えられる。また食性のパターンと集団遺伝解析の結果は、オオバアサガラ集団が比較的最近にサルナシ集団から食草幅の拡大と食草の変更を伴って生じ、その起源は独立複数回である可能性を示唆する。