ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-282
小松 貴(信州大,理),丸山 宗利(九大博),市野 隆雄(信州大,理)
アリヅカコオロギ属Myrmecophilusはアリ巣内に生息する好蟻性昆虫であり、アリから餌を奪い取りながら生活している。近年、微細な形態形質および分子情報により、国産種は多数種に分類され、特定の寄主アリ種への特異性を示す種もいることが明らかとなった。今回、これらのうち南西諸島に生息し、寄主特異性の程度に明瞭な差が認められる2種のアリヅカコオロギを用いて、アリ巣内での行動や寄主不在下での生存率、寄主アリ種の互換性を比較した。
その結果、野外において単一アリ種の巣からのみ得られるシロオビアリヅカM. albicinctus(スペシャリスト)は、顕著な物乞い行動によりアリから直接口移しで給餌を受ける以外に摂食の術を持たず、アリ不在下や他種アリコロニー内では短時間で死亡することがわかった。これとは対照的に、野外において3亜科にまたがる多数種のアリ巣内で発見されるミナミアリヅカM. formosanus(スペシャリスト)は、素早い動作でアリとの物理接触を避けながら自分で積極的に餌を摂食し、複数アリ種のコロニー内でも高い生存率を示した。さらに、これら2種のコオロギに関して口器形態を観察した結果、スペシャリストのシロオビアリヅカはジェネラリストのミナミアリヅカに比べ大顎の形態に退化傾向が認められた。
従来、アリヅカコオロギ属はアリから餌を奪う習性のみが知られていたが、本研究により、属内における行動の特殊化や寄主への依存度に二極化が見られることが明らかとなった。さらに、この事実はスペシャリストとジェネラリストという2つの戦略それぞれに得失があり、特定寄主からの効率よい搾取と代理寄主への妥協というトレードオフの上に成り立っているという可能性を示唆している。