ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-290
浦部 美佐子(滋賀県立大学環境科学部)
Genarchopsis goppo(吸虫綱二生亜綱)は日本の淡水域に広く分布する魚類寄生虫である.第一中間宿主はカワニナ類で,滋賀県内では,琵琶湖と周辺河川のカワニナ類(琵琶湖水系固有種・非固有種の両者)に広く寄生する.しかし,野外での感染率調査の結果,主要な第一中間宿主となる種は琵琶湖内でも地域によって違うことが判明している.そこで,宿主―寄生者の適合性を定量化するために室内で感染実験を行い,さらに宿主・寄生者双方の分子系統解析によって,宿主―寄生者の適合性の原因を考察した.
感染実験には,琵琶湖北湖産ヌマチチブに寄生する個体群(北湖個体群)と,長浜産カワヨシノボリに寄生する個体群(河川個体群)を用いた.これらの成虫から採卵し,実験室内で繁殖させた寄生虫フリーのカワニナ類に投与した.その結果, G. goppo北湖個体群はヤマトカワニナ・ハベカワニナにもっとも高い確率で感染し,河川個体群はタテヒダカワニナ・ナカセコカワニナによく感染した.宿主の採集地域による感受性の差はなく,寄生者の採集場所との地理的距離による違いも検出されなかった.分子系統解析の結果,G. goppoの両個体群には種レベルの明確な差異が検出され,琵琶湖水系のG. goppoには少なくとも2種の隠蔽種が含まれることがわかった.このことから,地域によるG. goppoの宿主の違いは,宿主ではなく,寄生者側の違いによるものであることが判明した.一方,カワニナ類の分子系統解析の結果,それぞれの寄生虫に対するカワニナ類の感受性は,系統的に制約されている可能性が高いと思われた.しかし,遺伝子解析の結果は,琵琶湖産カワニナ類には交雑個体がかなりの割合で含まれることを示唆しており,感受性と系統との関連づけにはより詳細な検討が必要である.