ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-318
山田浩雄(森林総研・林育セ関西)
日本のシイノキ属はスダジイ(オキナワジイを含む)とコジイの2種が認められ,照葉樹林地帯の優占種として広く分布している。両種の分布域は異なり,スダジイ(堅果長が長い)は両種分布域の北限から南限にわたって太平洋側と日本海側に分布する。一方,コジイ(堅果長が短い)は伊豆半島以西から九州までの太平洋側にほぼ限られ,スダジイの分布域に包含されている。このような両種の分布域の違いをもたらしている要因を検討するために,生育地の環境要因と密接に関係して,実生の生存と定着に大きく影響する堅果の発芽タイミングの地域変異を調査した。
シイノキ属の分布域を網羅するように,81林分176母樹より堅果を採取し,温室に播種後,上胚軸が地上に出現するまでの日数(出芽所要日数)を調べた。出芽所要日数別の堅果数の相対頻度分布(出芽パターン)は母樹により異なっていた。母樹の出芽パターンの違いにより,176母樹は4つのクラスター(A,B,C,D)に区分された。出芽所要日数は,クラスターA,B,C,Dの順に長くなり,堅果長は短くなった。クラスターA,B,C,Dの母樹の出現頻度は地域間で顕著に異なっていて,スダジイが優占する日本海沿岸,関東,琉球では,クラスターA,B,Cの母樹が出現し,クラスターDの母樹は出現しなかった。一方,スダジイとコジイが共優占する東海・瀬戸内地域,東・西九州にクラスターDの母樹が出現した。東海・瀬戸内地域,東・西九州は,相対的に秋冬季降水量が少なく乾燥し,春夏季降水量の多い湿潤な地域として特徴づけられた。秋に種子が落下し,出芽所要日数の長い(ゆっくり出芽する)クラスターDの出芽パターンは,生育地の降水量の季節変化と同調しているようであった。