ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-319
*星崎和彦(秋田県立大)・正木隆(森林総研)・大住克博(森林総研関西)・高橋和規(森林総研)・松根健二(住友林業)・鈴木和次郎(森林総研)
近年の多種共存に関する種々の議論から、多くの群集ではニッチ分割(決定論的過程)と偶然(中立理論的過程)の両方が異なる比重で寄与していると想定される。しかし、実際にそれぞれの過程がどの程度支配的なのかについては実証例が乏しい。本研究では、ハビタットの異質性が高く構成種の多様なカヌマ沢渓畔林(奥羽山系)の主要構成種10種を対象に、まず、渓畔林の環境異質性の高さが共存を促進するか検証し、さらにその解析結果を用いて、各種の環境決定論的過程の比重と関連する生活史特性を探索した。
解析は、種子落下量、当年生実生の発生と定着に関する12年分のデータをもとに、実生の発生と定着について8つの環境条件に対する回帰分析(ポアソン回帰およびロジスティック回帰)を行った。この解析から、更新に影響する要因の種間分離など更新ニッチの分割が確認された。この決定論的な更新過程は6種において特に重要で、光条件よりも鉱質土や砂礫といった基質が重要な要因であった。
決定論的過程の比重は種ごとに大きくばらついた。検討した10の生活史特性のうち、いくつか決定論的過程の比重と相関する形質があった。例えば、(1)多産な種ほど、(2)個体あたりの種子散布能力が高い種ほど、(3)成木個体群への加入が稀である種ほど、そして(4)寿命の長い種ほど、更新が決定論的で地表撹乱に強く依存していた。こうしたシンドロームは、河川撹乱による微環境の供給機会がギャップ形成と比べて限られることを考えれば、渓畔林の撹乱体制にうまく適応した結果であろうし、また調査地の群集組成を決定する規律(assembly rule)になりうる。