ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB1-322
松井淳,堀井麻美,柳哲平(奈教大),辻野亮(地球研),幸田良介(京大・生態研),今村彰生(京都学園大),高田研一(森林再生支援センター)
増加したシカ個体群密度下で近年起こった天然林の植生変化を明らかにし、更新可能性を評価し再生手法を検討するため、私たちは2005年に大峯山脈前鬼の針広混交林に1.08haのモニタリングサイトを設置し継続調査を行っている。
2008年8月から10月にかけ糞塊法によりシカの密度推定を行った。10m毎に幅4m長さ100mの範囲の糞塊を計数した後除去し、約1ヶ月後に再測した。Horino & Nomiya (2008)の排糞回数の平均値(23.3回/日)を用いると8月〜9月が11.2頭/km2、9月〜10月が24.0頭/km2となった。調査時にも現地で繰り返し目視されており、高い密度であることが確認された。
林床植生について方形区を5m×5mに区切ってスズタケ、アセビ、ミヤマシキミ、コバノイシカグマ他の稈数と被覆面積を記録した。高さ0.5m以上のスズタケ稈は全体で57本(2008年)しかなかった。1983年に本調査地とほぼ重なる林分で行われた調査では10本/m2以上の区画が199区画中112区画(56%)あり、林床がスズタケに覆われていたことと比較するとほぼ完全に消失している。不嗜好植物の出現頻度はコバノイシカグマ58%、ミヤマシキミ51%、アセビ46%にのぼった。
樹木実生の加入数には防鹿柵の内外で大きな差はなく、4年間でそれぞれ2276個体、2104個体発生した。しかし生残と成長には大きな差が現れ、05、06、07年発生の実生の08年時の生存率は67% vs 23%、72% vs 22%、86% vs 58%となっている。最大高は防鹿柵内では1mに達したのに対し柵外では20cmにとどまった。現在までの結果から防鹿柵内では実生・稚樹バンクが再生できる可能性が高い。