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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PB2-742

生態系における酸化還元力循環:温泉微生物マット群集をモデルにした解析

大滝宏代(首都大・生命),久保響子(首都大・生命/現Max-Planck-Inst.),春田伸(首都大・生命),花田智(産技研・生物機能/首都大・生命),可知直毅(首都大・生命),*松浦克美(首都大・生命)


生態系におけるエネルギーの流れを炭素化合物に注目して理解する範囲では,物質循環と統一的に捉える必要はない。ところが,生物のエネルギーを担う物質として,水素,硫黄,窒素の化合物が関与する系を合わせて理解する時には,両者を統一的に捉える必要が生ずる。その際,生態系や生物群集における還元力の循環と酸化力の循環を認識することが重要であり,それによりエネルギーの流れと物質循環の全体像が統一的に見えてくる。多彩なエネルギー獲得システムを持つ細菌やアーキアが主体の生物群集は,そのような認識が必要な生物群集である。また,地球全体の生態系も,エネルギーの流れや物質循環において細菌やアーキアの関与が大きいことから,そのような認識が必要な生態系である。

我々は,長野県中房温泉の50℃〜80℃の高温温泉流下に発達している多様な微生物バイオマット中の物質循環を,硫黄化合物および水素に注目して解析してきた。65℃域では,酸素を発生しない光合成細菌である緑色糸状細菌が優占し,その一次生産に支えられて数ミリの厚さに達する密なバイオマットが発達している。そのバイオマットを採取して実験室で水素発生活性を測定した。硫酸還元反応阻害剤の効果,光照射の効果,有機酸の添加効果等から,発酵細菌が有機物を利用して水素を生産し,硫酸還元菌が水素を利用して硫化水素を生産し,光合成細菌が硫化水素を利用して有機物を生産していると考えられた。そこでは,還元力が,その担体を炭素,水素,硫黄と変えながら循環していた。また,その還元力循環のリングは,硫黄酸化細菌やメタン産生アーキアがそれぞれ関与するリングの一部でもあると考えられた。


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