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ESJ56 シンポジウム S07-2

水田に魚を放すと,生物どうしの関係が見えてくる

大塚泰介(琵琶湖博物館)ほか


水田の田面水中および土壌表層付近における生物群集の生物間相互作用,たとえば捕食-被食関係や競争関係については,未だごく限られた知見しかない。これは水田の従属栄養生物の多くが広範な餌資源を利用しうる雑食性であり,しかも水田生物群集の経時変化は湛水後に急速に進む環境変化の影響を強く受けるので,観察結果から生物間相互作用を検出することが難しいためと考えられる。

しかし水田養魚に関する過去の研究をよく見ると,魚と直接の被食者との関係以外にも,水田における様々な生物間相互作用を示唆するデータが示されていることがある。魚の影響は直接の被食者以外の様々な生物にも及び,群集構造が対照水田と大きく違ってくることが少なくない。こうした一連の変化の中に,捕食-被食関係およびその連鎖による栄養カスケード,競争,そして「見せかけの競争」などの存在が示唆される。

私たちの研究グループは,琵琶湖周辺の水田にニゴロブナが遡上,産卵し,そこで仔稚魚が成長することに着目し,ニゴロブナ仔稚魚が水田の生物群集に及ぼす影響を実験的に調べることで生物間相互作用の検出を試みた。ニゴロブナは捕食によってミジンコ目およびカイミジンコ目を大きく減少させた。これに伴って30 ミクロン以上の生物の目レベルでの分類群数は原生動物を中心に増加し,またいくつかの原生動物の細胞数も増加した。この結果は水田の微小生物の中でしばしば優占的になるミジンコ目あるいはカイミジンコ目が,様々な原生生物の増加を抑制していることを示唆する。また, ミジンコ目の餌サイズである 63 ミクロン以下の植物プランクトン,従属栄養性ナノ鞭毛虫,細菌などが田面水中でより多くなった。これは栄養カスケードによると解釈される。

今後,こうした結果を安定同位体比の情報とつき合わせることにより,水田生物群集における捕食-被食関係の構造を把握すべく研究を進めている。


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