ESJ56 企画集会 T07
3月18日17:30-19:30 H会場
企画者: 若松伸彦, 杉田久志
日本における植生帯垂直分布の主な規定要因は温度条件であり、ブナ帯の上にひろがる亜高山帯では通常針葉樹林が卓越する。しかし東北日本では、本来亜高山帯域に卓越するはずのオオシラビソなどの針葉樹林帯を欠いた山岳が多く存在する。これら山岳の亜高山帯域には落葉性の低木林やササ原が広がり、「偽高山帯」と呼ばれる。このような針葉樹林欠落型の亜高山帯植生の位置づけについては、北東アジア全体を見渡した比較検討が必要である。また、「偽高山帯」の成立要因については、半世紀以上の間、気候、生態や植生史など様々な分野からの研究アプローチがなされてきた。その成果として、過去の気候変動に伴う植生変化が深く関係することが明らかになりつつある。
しかし、過去の植生変化の復元は非常に困難であり、これら過去のデータと現在の植生から得られる、分布域、樹種特性などのデータを、いかに総合的かつ適切に考察するかも難しい課題である。東北日本の亜高山帯域以外にも、現在の植生分布が過去の植生変化に大きく影響を受けているケースは数多く存在し、この問題解決は今後の気候変動に伴う植生変化を予測する上でもキーとなる事例である。
本集会では、地史的研究と生態学的研究双方から、「偽高山帯」を中心とした東北日本の亜高山帯植生の分布に関するこれまでの研究成果を総合的に提示し、既存の研究により何がどこまで明らかになったかをまとめる。その上で、今後この問題解決には、どのような視点の基でどのようなデータを蓄積していく必要があるかを議論する。
[T07-1] 「偽高山帯」問題の概要 若松伸彦(東京農大)
[T07-2] 北東アジア沿岸性気候下における亜高山性植生の分布 中村幸人(東京農大)
[T07-3] 大型遺体および花粉分析からみた東北日本における亜高山帯の植生変遷史 守田益宗(岡山理大)
[T07-4] 現在の植生から得られる情報からみた亜高山帯植生の成立 ―分布域および樹種の生態的特性― 杉田久志(森林総研・東北)