ESJ56 企画集会 T10-1
西田貴明(京都大・生態研)
アーバスキュラー菌根菌(AM菌)はほとんどの陸域生態系に分布し、70%以上の植物種と共生関係を持つといわれている。AM菌を接種した植物は、土壌の栄養塩類の吸収速度が増加し、成長量が増加する。さらに、AM菌の接種は、土壌の病原菌に対する抵抗性、水ストレスに対する耐性、植食者に対する防衛反応など、植物の様々な機能を向上させるため、AM菌は植物個体のパフォーマンスに重要な役割を果たすと考えられる。一方、野外の土壌では、AM菌は同一植物群落が形成される局所的空間において不均一に分布し、植物個体ごとに共生するAM菌の種は異なる。また、植物個体は同時に複数種のAM菌と共生関係(多重共生)を持ち、根系にAM菌群集を形成させる。従って、野外におけるAM菌の植物に対する影響を理解するためには、AM菌の種特異的な影響や多重共生の機能を明らかにする必要がある。本研究では、ミヤコグサとナミハダニの相互作用系を用いて、異なるAM菌と共生した植物の成長や植食者に対する抵抗性の違いを評価した。さらに、AM菌群集の種数と種特性に注目し、AM菌の多重共生が植物に与える影響とそのメカニズムを明らかにすることを試みた。その結果、AM菌の種の違いは、植物の成長量やハダニに対する抵抗性に異なった影響をもたらすことが示された。特に、抵抗性を高めるAM菌の種と成長を強く促進させるAM菌の種は異なっており、植物に適応的なパートナーは環境ごとに異なることが示唆された。また、AM菌と多重共生した植物は、高い機能を持つAM菌の種の影響を受けることで、成長と抵抗性の両方が高まった。従って、植物は機能の異なるAM菌と多重共生することで、複数のAM菌から相加的に異なる機能を獲得している可能性がある。このようなAM菌の機能的な多様性は、環境の変化に適応する植物個体の生存に重要な役割を担っていると考えられる。