ESJ56 企画集会 T14-2
*蒔田明史(秋田県立大・生資),田村浩喜(秋田県森技セ)
新たに開発された技術がそのメリットだけに着目して導入され,その後デメリットが見つかって問題となることはよくあることである。外来生物の導入に関しても同様であろう。本発表では,ニセアカシアが鉱山煙害地緑化に果たした役割について評価し,近年顕著となっている海岸マツ林への侵入実態と今後の課題について議論したい。
秋田県北東部に位置する小坂鉱山は,明治時代末には足尾や別子銅山をはるかに凌ぐ生産量を誇った。しかし,煙害による植生の荒廃が著しかったため,1950年頃からニセアカシアを用いた大規模な植生回復事業が行われた。田村ら(2007)によると,ニセアカシアは初期成長がよく,50年余を経た現在,全ての調査地で成林しており,植生導入で土地を安定させるという初期の目的は十分達成されたといえよう。ただし,鉱山煙突に近かった場所などではニセアカシア以外の樹種はほとんど見られず,本来の植生とは著しく異なった林分が広範囲に拡がっている。高齢木の倒伏も懸念される現在,今後どのような植生へ導いていくかが課題となっている。
一方,秋田県下では,マツ枯れの進行が著しい海岸マツ林への侵入が問題となっている。秋田市の夕日の松原内586haを対象に調べたところ,林床に分布しているものを含めるとマツ林の4分の1程度にニセアカシアが分布していた(亀山ら未発表)。当初は種子で定着したものであろうが,群落の拡大をもたらしたのは根萌芽を中心とした旺盛な栄養成長である。DNA解析により,40年の間に1個体で200m近い拡がりをもつに至ったと推定されるクローンも確認された(三嶋ら未発表)。今後の植生管理を考える上で,ニセアカシアの水平根の発達様式や萌芽発生機構などのクローナル特性を明らかにする事が必須であり,それをどうコントロールするかを検討しなければならない。