ESJ56 企画集会 T19-2
西廣淳(東大・農学生命科学)
日本の湖沼では、水質については長期的なモニタリングデータが存在する場合が多いが、生物多様性の状態についての系統的な調査が行われている例はほとんどない。一方、湖沼の生態系サービスの低下が様々な形で認識されるようになり、その源泉である生物多様性の現状への関心も高まりつつある。海外では、五大湖の総合的湖沼環境評価のように、多様な指標を組み合わせた大規模な生物多様性・生態系のモニタリングが展開されている例もある。また近年の人文社会科学的研究からは、経済活動の中での有用性の視点からは評価されていなかった多様な生物が、地域固有の文化を支えてきた事実も示されている。今後は、生物多様性の状態を適切な手法で把握・監視し、管理に反映させていく必要がある。
ここでは、霞ヶ浦と釧路湿原の湖沼を対象として、既存の断片的な資料を活用して生物多様性(特に湖岸の植物)の状態変化の解析を試みるとともに、継続的モニタリングに適した指標について提案する。
植物種ごとの生態的特性についての情報を活用し、国土交通省による「河川水辺の国勢調査」をはじめとする環境調査で得られた植生・植物相データから、生物多様性や生態系サービスと関わる変化を分析する。また、種多様性の維持に寄与するファシリテーター的性質をもつ植物種や人と自然のかかわりにおいて重要性の高い種に注目したモニタリングなど、現在の湖沼で生じつつある問題の把握に適した指標について検討した結果を紹介する。