ESJ56 企画集会 T21-3
堀正和(水研セ・瀬戸内海区)
沿岸域は大型海藻・海草類,サンゴや二枚貝類など,その場の生息環境を制御する基盤種(foundation species)の卓越が特徴的であると言われている.このことから,沿岸域の生物群集は基盤種,基盤種のつくり出す環境に依存した生物,基盤種を改変する生物の3つの機能群として扱われることが多い.これらの機能群を構成する生物の殆どはプランクトン幼生など海の流れに乗って広域に分散する生活史ステージを持つ.そのため,環境が変化した場合,幼生の加入イベントの変化や分布域の変化などが生じやすい.従って近年の気候変動に伴う海流の変化や陸水流入の変化は,水温や沿岸の流れなどの沿岸域の海洋環境を変化させ,その変化が群集動態に大きな影響を及ぼすことが懸念されている.
本研究の対象である岩礁潮間帯でも,海洋環境(海況)の変動に伴う群集構造の変化が生じる.暖流と寒流が出会う北海道南部は今後の水温上昇が大きいと予測されており,現状でも暖流の勢力増加に伴う群集構造の変化が見られる.特に基盤種の海藻類では,基盤種に生息する生物に適した緑藻類が減少し,不適な海藻類の被度が増加する.この変化は海藻類のフェノロジーの変化と水鳥類による海藻類への植食圧の変化によって説明され,植食圧を操作した実験の結果では,植食圧の弱い区において不適な海藻類への置換率が小さく,植食圧の強い区と植食除去区で大きくなった.この海藻類の変化により,海藻類に生息する無脊椎動物類の密度,さらに無脊椎動物類の捕食者の動態まで変化が生じた.このことは,海藻類のフェノロジー変化に加え,植食者の分布の変化によって相互作用が変化し,それらが複合的に群集動態に影響する可能性を示している.この発表では他の事例も含め,海況変動に伴う生物間相互作用の変化と群集動態への影響について参加者と議論したい.