ESJ56 企画集会 T27-3
守山拓弥(農村環境整備センター)
近年の環境問題への関心の高まりなどを背景に、食料・農業・農村基本法が成立(平成11年)し、これを受け、農業農村整備の分野においても、その背骨とも言うべき土地改良法が改正され(平成13年)、事業実施に際し「環境との調和に配慮」することが明文化された。一方、平成14年に閣議決定された「新・生物多様性国家戦略」においても、第2の危機として里山の荒廃が取り上げられるなど、農村地域の自然環境の悪化が強く指摘されるようになってきている。
このような背景のなか、農業農村工学分野においても、生態系を含む環境問題への様々な基礎研究、技術開発、配慮対策の現場適応が実施されており、水田生態工学という名称をもったひとつの学問領域が形づくられてきている。
水田生態工学の分野では、水田、農業水路、河川により形成された水域ネットワークにおける魚類の移動とその保全が主要な研究テーマとなっている。本報告では、水田生態工学分野におけるこれらの既往の研究のながれや保全事例を紹介する。また、ウグイLeuciscus(Tribolodon)hakonensisを対象とした河川と農業水路との間での移動分散研究の事例を紹介し、水域ネットワークの構築とともに農業水路内で魚類個体群が定住的に生息できる環境を保全することの重要性について議論する。
以上により、本企画集会のテーマである水田水系を中心とした生態ネットワークについての議論の一助とする。