ESJ57 一般講演(口頭発表) E1-08
苅部治紀*〈神奈川県立博物館)・北野忠(東海大学)・田島文忠(千葉シャープゲンゴロウモドキ保全研究会)・永幡嘉之〈山形大学)・西原昇吾(東京大学)
里地里山の水辺の生物多様性の喪失は著しいため、その保全が求められている。止水性の大型のゲンゴロウ類であるマルコガタノゲンゴロウCybister lewisianusは主として大きな池に生息する。本州・九州の15府県に局所的に分布していたが、現在の生息地は8県の10数ヶ所であり、環境省のレッドリストで絶滅危惧I類に指定されている。
本研究では、本種の減少要因および、生息環境要因を明らかにすることを目的として、文献調査、聞き取りに加え、本州の生息地の踏査を行った。また、生息環境要因として水質(全窒素、全リン、主要溶存塩類など)、植生と侵略的外来種の侵入、池の集水域の土地利用について調査した。
文献調査の結果、本種は、太平洋側の都市部では池の埋め立てや水質悪化などにより、1980年代までに確認されなくなった。一方、1990年代以降に本種が確認されなくなった生息地における主な環境変化としては、オオクチバスの侵入4ヶ所、アメリカザリガニの侵入3ヶ所、池の大規模改修1ヶ所、埋め立て4ヶ所、水質悪化4ヶ所、干ばつ1ヶ所であった。
本種の生息地における植生は、ジュンサイ、タヌキモ類など、弱酸性、貧栄養を好む種が確認された。水質解析の結果では、とくに全リン濃度が多くの地点で0.03mg/l以下と低く、貧栄養であった。また、土地利用については、現在の生息地のほとんどで、集水域に人家や、畑、水田が存在しなかった。
以上より、本種の保全のためには、生息する池の埋め立てや改修の監視、周辺に侵入した侵略的外来種の排除が重要である。また、リンが制限要因となって藻類などの発生による富栄養化の進行を抑制すると考えられたため、集水域の開発や排水の流入をできる限り抑制することが必要であることが示唆された。