ESJ58 一般講演(口頭発表) D1-01
*菊地永祐,安野翔(東北大・東北アジア研),進東健太郎,嶋田哲郎(伊豆沼財団),高木優也(東北大院・生命),鹿野秀一(東北大・東北アジア研)
安定同位体比解析は食物連鎖の解析に有効な手段として使われている。窒素安定同位体比は栄養段階がひとつ上がる毎に約3.4‰ほど上昇することが知られており、そのため窒素同位体比は消費者の栄養段階や食物連鎖長を決める有効な指標となるが、その決定には食物連鎖の出発点(基点)の同位体比を正確に決める必要がある。しかし、水圏生態系では、食物連鎖の基点となる生産者の同位体比が時期的にも場所的にも大きく変化することが知られており、そのため生産者の同位体比の代わりに、長寿命の1次消費者の同位体比を基点値の推定に使うことが提案されている。1次消費者の同位体比は、生産者の同位体比の長期にわたる平均値を反映するからである。湖沼の浮遊系食物連鎖研究においては、1次消費者として懸濁物食の底生二枚貝類が使われることが多い。
宮城県北部に位置する伊豆沼において、2006年にカラスガイの同位体比を測定したところ、生産者である植物プランクトン(POM)よりも窒素同位体比が6‰も高い値を示した。当時、伊豆沼ではカラスガイの稚貝の加入が見られず、殻長が15cmよりも大きな個体しか採集できなかった。そこで、伊豆沼の湖底で、稚貝を籠にいれて飼育し、カラスガイの成長に伴う同位体比の変化を調べた。
一方、2010年7月伊豆沼内でカラスガイの稚貝が発見され、少ないながらも稚貝の加入があることが分かった。そこで10月に稚貝から大型個体まで体サイズの異なるカラスガイの採集を行い、サイズと同位体比との関係から、成長に伴う同位体比の変化を調べた。
その結果、伊豆沼のカラスガイの窒素同位体比が成長に伴い増加することが分かったので報告する。