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ESJ58 一般講演(口頭発表) D1-03

暖温帯におけるミズゴケ湿原の維持機構:物質収支と温暖化の影響

*福田栄二,中坪孝之(広島大・院・生物圏)


ミズゴケ湿原は冷温帯を中心に発達することが知られているが、オオミズゴケ(Sphagnum palustre)は寒帯から暖温帯にまで広い分布域を持ち、暖温帯でもミズゴケ湿原を形成している。こうした暖温帯のミズゴケ湿原は、希少な湿性植物の生育地として重要な役割を果たしているが、その維持機構に関する情報は少ない。そこで、本研究では生産と分解のバランスである物質収支の面から維持機構を明らかにすることを目的とし、分解過程の解明と物質収支の推定に加え、温暖化がミズゴケ湿原の維持に与える影響の検討を行った。なお、生産については第57回日本生態学会で発表した結果を用いた。

調査対象は、広島県東広島市のため池上流部(標高250m)に位置し、イヌツゲ群落下に発達した面積約100m2、厚さ30cm程のオオミズゴケ湿原とした。本研究では、緑色をした表層5cmのミズゴケを生産層、光が届かず褐色のミズゴケが堆積する表層5cm以下を分解層として扱い、調査地の気温と各層のミズゴケ温度を連続的に測定した。季節ごとに分解層のコアサンプル(φ=5cm,h=5cm)を採取し、赤外線ガス分析装置を用いた同化箱法により呼吸速度(mgCO2 g-1 h-1)を求めた。

分解層の呼吸速度は表層から下層になるにつれ低下したが、季節による明瞭な違いは見られず、Q10も2.1-2.6の範囲の値を示した。得られたデ-タをもとにモデル式を作成し、物質収支の推定を行ったところ、現在の温度条件下で生産量と分解量はほぼつり合い、暖温帯のミズゴケ湿原は活発な生産と分解のもと平衡状態を維持していることが明らかになった。また、温度条件が2℃、4℃上がると仮定して物質収支の変動を調べると、物質収支は大きくマイナスへ転じ、温暖化によりミズゴケ湿原の分解層が減少し新たな平衡状態へと向かうことが示唆された。


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