ESJ58 一般講演(口頭発表) D1-04
*江草 智弘,東大院農 , 大手 信人,東大院農 , 福島 慶太郎,京大フィ-ルド研 , 徳地 直子, 京大フィ-ルド研 , 佐藤 拓哉,京大フィ-ルド研 , 谷尾 陽一,京大院農
渓流や河川は,降雨や土壌中での生成の結果負荷されるNO3-・PO43-といった栄養塩を水の流れを通じて下流に運び,湖沼・海に供給する.これらの栄養塩は河川中でも,有機物の無機化によって負荷される一方,藻類や微生物による吸収・取り込みを繰り返しながら下流に流れていくと考えられている.この河川中での栄養塩吸収・放出は湖沼・海への栄養塩供給量を規定する大きな要因と考えられているものの,日本で実際に測定が行われた例はいまだ少なく,流域間比較を可能とするデ-タも得られてはいない.
本研究では,原位置栄養塩添加実験の手法を用いて,流域特性の異なる2つの森林流域(和歌山県有田川流域と千葉県猪川流域)におけるNO3-,PO43-吸収量の違いについて検討した.2流域の集水面積はともに100ha前後であるが,有田川流域の試験渓流は急峻で,比流量が3.0mm/day以上であるのに対し,猪川流域のそれは緩やかで,比流量0.2mm/dayであった.
NO3-に関しては,有田川・猪川ともに,無降雨日が続き比較的流量が低下していた観測時に吸収が見られ,吸収量はそれぞれ101mg/m2-hr,97mg/m2-hrと同程度の値を示した.PO43-に関しては,いずれの観測でも吸収されていたが,有田川の吸収量が3.4-4.0mg/m2-hrであったのに対し,猪川では9.5mg/m2-hrで,大きな差が見られた.
PO43-は生物による吸収よりも物理的な吸着が大きく影響し,NO3-の吸収は生物的な影響によるものが大きいと考えられている.2流域 PO43-吸収量の差は渓流の河床構造の違いを反映しているものと考えられる.一方,NO3-の吸収は,観測結果から流量(流速)に強く左右されることが示唆された.