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ESJ58 一般講演(口頭発表) D1-05

アジア大陸起源の大気降下物は日本の湖沼へどのような影響を与えているか?

*槻木玲美(愛媛大・SRFC), 占部城太郎(東北大・生命), 谷幸則(静岡県立大・環境研), 上田眞吾(日大 生物資源), 阿草哲郎(島根大・医), 小田寛貴(名大・年代測定センタ-), 王婉琳(東北大・生命), 田辺信介(愛媛大・CMES)


アジア大陸では、近年、急速な経済発展に伴い、土壌浸食等の自然発生的な浮遊物質に加え、石炭石油燃焼など人為的発生源による浮遊物質量の増加が報告されている。このような人為起源の浮遊物質量の増加が、水域生態系にどのような影響を及ぼすのか、特にリン負荷の影響はこれまでほとんど注目されてこなかった。水域の中でも、高山湖沼は人里離れた地域に立地し貧栄養湖が多く、大気降下物による栄養塩(窒素やリン)負荷の影響を検証し易い。

そこで本研究は、八幡平国立公園内にある標高1500m以上の蓬莱沼と八幡沼を対象に、古陸水学的手法を用いて湖底堆積物中のC・N・P含有量、安定同位体(13C, 15N, 206-208Pb)、色素や遺骸を調べ、過去300年にわたる動植物プランクトンの動態を再現し、その変動要因も検証した。その結果、蓬莱沼ではTP・TN量の顕著な増加が認められる1990年代以降、植プラ量が急激に増加すると共に、リン要求の高い動物プランクトンのDaphniaも大幅に増加していた。これらの結果は、蓬莱沼の動植物プランクトン動態が栄養塩負荷によるBottom-up的な制御を受け、近年大きく変化していることを示している。蓬莱沼では集水域開発は行われておらず、栄養塩負荷の増大は、大気降下物由来と考えられた。一方、八幡沼はTP量に大きな変化は認められずDaphniaの増加も認められなかった。両沼は僅か1.3kmしか離れていないが、このようにプランクトンの動態は大きく異なっていた。発表では、このような違いが生じた要因や、蓬莱沼での大気経由と考えられる栄養塩負荷の起源について、鉛の安定同位体に基づいて考察した結果を報告する。


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