ESJ58 一般講演(口頭発表) D1-06
*柴田淳也,濱岡秀樹,松元一将,南口哲也,赤松泰雅,宮崎寛史,近藤修平,國弘忠生,大西秀次郎,大森浩二 (愛大・CMES)
瀬戸内海は瀬戸や海峡部で区切られた環境異質性の高い半独立した複数の海域からなり、各海域で特有の生態系構造を示しうる。水深が浅い瀬戸内海は底生一次生産量も多いと考えられることからその食物網構造は、表層一次生産が主な有機物源となる外洋の食物網構造よりも複雑になると考えられる。瀬戸内海における沿岸生態系の維持機構を理解するには海域毎の食物網構造を明らかにすることが必要であるが、大阪湾や広島湾など一部の海域で研究が行われているのみで、瀬戸内海全域の食物網構造に関する知見は限られている。本研究では瀬戸内海の湾や灘など9つの海域において、安定同位体比分析を用い地域生物群集を構成する各生物の栄養段階や依存する有機物源を推定し、各地域食物網構造の特徴を明らかにすることを目的とした。
その結果、瀬戸内海の各海域の食物連鎖長は、大阪湾で最も小さく3.7、燧灘にて最も大きく4.2で有意な差が認められたものの大きな違いがないことが分かった。また、瀬戸内海の全海域において最高次捕食者の魚食魚に底生一次生産が大きく寄与し、瀬戸内海生態系の維持に底生一次生産が極めて重要な役割を果たしていることが裏付けられた。しかし底生一次生産の重要性に関しては、瀬戸内海で最も水深の深い海域で太平洋沖合生態系との移行帯に位置する豊後水道において、瀬戸内海の他の海域に比べ底生一次生産の重要性が低い特徴があることも明らかとなった。このような海域間でみられた食物連鎖長や底生一次生産の寄与率などにおける食物網構造の違いが生じた要因について、各海域の水質・地理的環境や一次生産性との関連性から考察する。