ESJ58 一般講演(口頭発表) D1-08
宮崎麻衣,中沢亜里砂,山下麗,高田秀重(東京農工大農),山本誉士(総研大),高橋晃周(極地研),P. Trathan (英南極局),*綿貫豊(北大水産)
海洋生態系における高次捕食者である海鳥は、生物濃縮によって海洋中の微量汚染物質(重金属、有機塩素化合物など)を高濃度に蓄えるので、海洋汚染のモニタ-としてよく使われてきた。その行動範囲が広いため、大洋の平均的汚染度を知るには役に立つが、一方で、汚染海域を特定しづらい、という欠点があった。最近、その移動経路を長期にわたりを詳細に追跡する技術や、尾腺ワックスを使って非侵襲的に体内に蓄積された残留性有機汚染物質(POPs)を分析する技術(Yamashita et al. 2007 Env. Sci. Technol.)が開発された。われわれは、これらの技術をつかい、新潟県粟島で繁殖し、太平洋亜熱帯で越冬するオオミズナギドリの越冬海域とPOPsの関係を明らかにした。足に装着したデ-タロガ-で日の出入り時刻を推定し越冬場所を推定したところ、南シナ海、パプアニュ-ギニア北部海域、アラフラ海の3つの海域で越冬する個体がいることが明らかとなった(Yamamoto et al. 2010 Auk)。尾腺ワックス中のPOPs(PCBs,DDE) 濃度は、南シナ海、アラフラ海で越冬した個体の方がパプアニュ-ギニア北部海域で越冬した個体よりも高い傾向にあった。これは、中国の大都市沿岸部、台湾、東シナ海を経由して粟島に戻る南シナ海越冬個体が、POPs汚染が進んでいる沿岸域を利用するためであろう。アラフラ海越冬個体の汚染度がやや高い理由ははっきりしないが、ここは様々な汚染が懸念されている海域である。本研究は、海鳥やガン・カモ類など長距離渡りをする鳥類の行動範囲と汚染物質蓄積を同時に個体ごとに調べることで、現場での直接測定が困難な特定地域の汚染度を安価にモニタ-できる可能性があることを示している。