ESJ58 一般講演(口頭発表) F2-05
*内海俊介(東大広域),安東義乃(京大生態研),Heikki Roininen(Eastern Finland Univ),高橋純一(京産大),大串隆之(京大生態研)
生物群集の動態と群集構成種の進化の密接な関わりが認識されつつある。では、生物群集の「種多様性」は、群集内の種の適応進化にどのような影響を与えるだろうか?実はこの問いについて取り組んだ研究はほとんどない。考慮に入れる種の数が増えるほど、直接・間接的な相互作用の数も指数関数的に増大し、検証が困難であると思われることがその一因であろう。一方、「多様性?生態系機能」関係の議論に目を向ければ、種多様性が何らかの生態的な機能に反映されうると考えるのは妥当である。われわれは、種多様性が生態的機能に反映され、それが種の適応進化を促すと考え、その予測を検証することを試みた。
本研究では、植食者群集と植物の関係に焦点を当てる。植物は植食性昆虫の食害に対し、表現形質を可塑的に変化させる。この食害応答の結果、それを介して多様な植食者種が間接的に影響を与え合う。このような間接相互作用を含む生物種間のネットワ-クを「間接相互作用網」とよぶ。われわれはここで、食害応答の結果生じる植物の表現型発現の時空間パタンを、間接相互作用網における生態的機能の一つとして捉えた。そして、1)植食者群集のα多様性が高いほど食害応答による生態的機能が高くなる、2)β多様性が高いほどその生態的機能の違いが大きくなる、3)その生態的機能の違いが群集内の植食者種の適応形質の進化に影響する、という仮説を立てた。これらの仮説を検証するために、われわれは、野外調査、野外操作実験、遺伝解析などの一連の実証研究に取り組んできた。本講演では、それらの研究結果について論じる。