ESJ58 一般講演(口頭発表) G1-07
高田宜武,梶原直人(水研セ・日水研),鈴木雄也(新潟大・院・自然科学),山平寿智(琉球大・熱生研)
日本海沿岸の海岸線では、潮汐の振幅が小さく冬期の荒天によって底質が大きく撹乱されるため、砂浜がパッチ状に発達している。このような砂浜の汀線域には、フクロエビ上目に属する潜砂性の小型甲殻類が優占して生息している。これらの雌は哺育嚢内で幼体を成体と同様の形態になるまで生育させ、幼生期の長距離分散がないため、砂浜ごとに独立して個体群の変動が起こると考えられる。実際、汀線域に生息する端脚類ナミノリソコエビHaustorioides japonicusの夏期の密度が新潟市内の近接する砂浜間で大きく異なっており、これは春期から夏期にかけての個体数の増加率が砂浜間で違うことが原因であると考えられている。そこで本研究では、佐渡および新潟近郊の砂浜にてナミノリソコエビの個体群を3年間追跡し、密度の年変動について調査した。
砂浜汀線域において汀線に垂直に3本のトランセクトを10m間隔で設置し、各トランセクト上に1m間隔で採集地点を設け、直径10cmのコアサンプラ-で深さ10cmまで採集し、1mm目のふるいに残った生物を実験室に持ち帰った。持ち帰った生物は双眼実体顕微鏡下で同定し個体数を計数した。また、砂浜の傾斜、底質粒度、硬度、塩分などの物理的環境を記録した。
新潟では、ナミノリソコエビの密度が最低となる春期と最高となる夏期とでは2桁程度の密度変動が認められるのに対し、佐渡では1桁程度と変動の幅が少なかった。これは、佐渡では秋以降の密度減少が少なく、春期にもある程度の密度を維持するためであると推定された。北西季節風に伴う波浪による底質の撹乱が、秋期以降の密度減少の原因だとすると、波浪の影響の大きい新潟側で密度変動が大きいことが説明できる。冬期の波浪が厳しい砂浜海岸において汀線域の小型甲殻類が個体群を維持するメカニズムについて考察する。