ESJ58 一般講演(口頭発表) G1-08
*武島弘彦(東大・大気海洋研),松崎慎一郎(国環研),児玉晃治(福井県・水試),前田英章(福井県・海浜自然セ),西田 睦(東大・大気海洋研)
フナ (Carassius auratus 種群) は,日本列島に広く分布する一次性純淡水魚であるが,近年の河川改修や外来魚の移植などの人為的な影響により,その個体数は減少の傾向にある.また,地域間の人為的移植放流の影響により,フナ地域個体群の遺伝的攪乱も危惧されている.ミトコンドリア DNA (mtDNA) 分析に基づく最近の研究から,日本列島のフナは,本州,本州+四国,ならびに九州の,大きく 3 つの地域固有系統から成ることが明らかとなってきた.本研究では,フナの地域固有個体群の保全を目指して,ラムサ-ル条約登録湿地として知られる,福井県三方湖ならびにその周辺水系に生息するフナの種内系統構成の把握を試みる.
2009 年 7 月から 2010 年 7 月にかけて,三方湖周辺水系にて採集された,フナの稚魚ならびに成魚,合計 306 個体を試料とした.mtDNA 調節領域の塩基配列を決定し,既知情報を用いて,ハプロタイプ間の関係を検討した.
mtDNA ハプロタイプの最尤樹において,三方湖周辺水系のフナに見出されたほとんどのハプロタイプは,本州+四国で形成されるクレ-ドに含まれた.その内の一部のサブクレ-ドは三方湖周辺水域ハプロタイプのみで形成された.一方,九州ならびに中国大陸クレ-ドにも,三方湖周辺水域ハプロタイプが各々 1 つずつ出現した.以上のことから,現在の三方湖周辺水域のフナは,少なくとも,本州+四国,九州,ならびに中国大陸の種内系統由来の個体から構成されることが伺われる.このような情報は,地域固有フナの保全の基礎となる.