ESJ58 一般講演(口頭発表) H1-10
*小北智之, 熊田裕喜(福井県大・海洋), 柿岡諒(京大・理), 奥田昇(京大生態研)
祖先性の河川集団から,新たに形成された湖沼の沖合環境に適応した集団が進化する現象は,湖沼の生物多様性を創出する重要なメカニズムの一つである。このような“湖沼適応”は,様々な湖沼の様々な魚類分類群において知られているが,特に,高緯度地域の後氷湖に生息する冷水性魚類ペア種の平行進化は極めて有名な例である。
西日本の河川に広く分布するコイ科魚類タモロコは,琵琶湖やその他の中規模の湖沼で複数回の湖沼適応現象が認められる。興味深い点は,表現型の湖沼適応の程度に湖沼規模と関連した集団間変異が存在する点であり,広大な沖合環境を有する琵琶湖には,最も沖合生活に特殊化したと考えられる集団(ホンモロコ)が生息し,その他の中規模の湖沼には,祖先性河川集団とは明らかに異なった表現型を持つが,琵琶湖集団ほど特殊化していない集団が生息する。このようなパタ-ンの適応進化をもたらす遺伝的基盤はどのようなものであろうか?本研究では,まず沖合環境での生活と関連した生理的適応に着目し,これに関与した遺伝子群の探索を比較トランストクリプト-ム解析によって試みた.本種は完全な非モデル生物であるため,ゲノムの事前情報が必要なく,網羅性が高いとされる改良型cDNA-AFLP法(HiCEP法)を用いた遺伝子発現プロファイリングを実施した.本発表では,HiCEP法によって得られた候補遺伝子群の発現量変異パタ-ンをqPCRによって様々な集団で解析した結果を併せて報告する。