ESJ58 一般講演(口頭発表) H2-02
椿 宜高*,奥山 永(京大生態研セ)
近縁の2種が地理的に重なって分布する場合、同所的な地域では形質の変化が見られることがあり、形質が互いに離れる方向に変化することが多い。繁殖干渉を避けるようにシグナル形質が分岐する場合(繁殖形質分岐)と、資源分割やスペ-ス分割を促進するような形質が分岐する場合(生態形質分岐)があるが、両者は簡単に分離できるものではない。
我が国固有のカワトンボ2種(Mnais costalisとM. pruinosa)は複雑な異所的/同所的分布を示す。大雑把には、M.costalisが単独で生息する地域は東関東以北、M.pruinosaが単独で生息する地域は中部から四国-九州にかけての太平洋側である。両種が共存する地域は、関東西部から九州にかけての日本海側と瀬戸内海沿岸になる。
全国から集めた標本を用いて、形質分岐の検討を行った。それぞれが単独に存在する地域では、両種ともオスに翅色の多型が観察された。しかし、M.costalisとM.pruinosaでは体サイズに顕著な違いはなかった。
ところが、両種が同所的な場合、地域によって2種類の全く異なるパタ-ンが観察された。近畿から中部地方にかけてはM.costalisのオスは橙色翅だけ、M.pruinosaのオスは透明翅だけである。しかし、形質の地域変化はそれだけではない。M.costalisの橙色翅オスは、単独域の橙色翅オスよりも、さらに大きい傾向があった。さらに、M.pruinosaの透明オスは、単独域の透明翅オスよりも小さかった。つまり、体サイズにも形質分岐が生じていると考えられる。これらの形質分岐の地域差を説明するいくつかの仮説とその検証について、これまでの研究結果を紹介したい。
中国地方から九州北部にかけて両種が同所的な場合は、同所的であるにもかかわらず、両種のオスの翅色多型は保持される。時間が許せばこの地域で生じている形質分岐についてもふれたい。