ESJ58 一般講演(口頭発表) H2-03
山本哲史*曽田貞滋
繁殖のタイミングが時間的に異なることで、集団は時間的に隔離されることがある。時間隔離は近縁種間でもよく見られ、おそらく種分化に貢献してきたと考えられる。しかしながら、時間的隔離の原因となる繁殖時期の進化は、他の形質進化の副産物として進化してきたと議論されることが多い。たとえば、植食性昆虫の種分化では、フェノロジ-が異なる植物へ適応することで、昆虫側の繁殖時期がずれている可能性がある。この場合、時間隔離が維持されるのは異なる植物への適応の副産物である可能性がある。このように、時間隔離はさまざまな分類群の種分化で見られるにもかかわらず、種分化における時間隔離の重要性は未だ議論が分かれる状況である。
冬に繁殖を行うクロテンフユシャクという蛾は、真冬の環境が厳しいハビタットにおいては繁殖期が初冬と晩冬に分断しており、初冬型集団と晩冬型集団の間で生殖隔離があることが知られている。初冬型と晩冬型の間では寄主植物や生息環境の変更などは知られておらず、初冬型と晩冬型は時間隔離によって種分化がおこっていると考えられる。
我々は、クロテンフユシャクの系統地理解析を行ったところ、初冬型と晩冬型の分化は九州と本州(九州以外の地域)で並行的に生じたことが明らかになった。クロテンフユシャクに近縁な冬尺蛾の系統では、初冬型の種と晩冬型の種の分化が繰り返し起こっていることが知られている。それらの分化がどのように生じたのかは不明な点が多い。本研究は真冬の寒さによる時間的隔離の成立は繰り返し生じ得ることを示しており、冬尺蛾の多様化プロセスに真冬の寒さによる時間的な種分化が大きく貢献してきたことを示唆している。