ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-081
関剛(森林総研・北海道)
森林群落において、林冠構成個体の樹高成長は群落の三次元構造を構成する主要な要素の一つである。樹高成長量の年次間変動を説明できる要因を知ることは、森林の三次元構造の変化を予測する上で有効である。特に、樹高成長量の年次間変動を気象要因によって説明することが可能ならば、気象環境の変動が森林の三次元構造に及ぼす影響を予測するのに有効であろう。
本研究では、本州の寒温帯林において優占樹種の一つであるアオモリトドマツ(Abies mariesii)を対象に、気象要因が林冠構成個体の樹高成長量の年次間変動を説明する要因として有効かどうか検討した。先行研究において、本種の樹高成長量は当年生シュ-ト伸長の前年における球果生産と負の関係にあることが明らかになっている。もし、球果生産に影響を与える気象要因がそれよりも強い影響を樹高成長量に与えるのであれば、気象要因が樹高成長量の年次間変動を説明する上で有効であると考えられる。この観点から、本研究では、球果生産に影響を与える気象要因の検出から試みた。同属樹種の先行研究では、花芽形成時期の気温が球果生産の年次間変動で重要であることが指摘されている。調査対象個体は、青森県八甲田山に生育している14個体である。
球果生産の年次間変動については、有効な気象要因が検出された。すなわち、球果生産前年7月の平均気温は球果数と強い正の関係を示した。この気象要因は、シュ-ト伸長2年前の7月平均気温に相当し、樹高成長量の年次間変動と負の関係を示した。しかし、球果生産ほど強い関係を示さなかった。また、2つの気象要因によって樹高成長量を説明するモデルにおけるAICは、シュ-ト伸長前年の球果生産を単一の説明変数とする場合のAICよりも大きな値を示した。
本研究の事例において、樹高成長量の年次間変動を説明する上で、気象要因は球果生産ほど有効ではないと考えられる。