ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-086
*北岡哲(森林総研・北海道),松田修(九大・理),上村章,飛田博順(森林総研・北海道),射場厚(九大・理),宇都木玄(森林総研・北海道)
近赤外光は800-2500nmの波長域の光で、可視光と似た性質も持つため、見えない光とも呼ばれている。非破壊で迅速な測定が可能になるため、近赤外光を利用した成分分析法が発達してきている。例えば食品分析では糖類やタンパク質の定量に近赤外分光法の応用が始まっている。
高CO2濃度下において樹木を栽培した際に、多くの樹種でみられる現象として光合成の負の制御がある。この現象が生じる原因のひとつとして、光合成産物である可溶性糖やデンプンの集積により、光合成の機作が影響を受けることが挙げられる。近赤外分光法を用いることによるこれらの測定の簡便・迅速化は、高CO2下における樹木の生理応答の解明に貢献するであろう。そこで、本研究は冷温帯の主要な落葉樹であるシラカンバを用いて、近赤外分光法の適用を試みた。
360ppm(対照)と720ppm(高CO2)の各CO2濃度下で栽培した個体から成熟した葉を、高CO2処理開始から10週間後の早朝に採取して近赤外分光の測定に供した。可溶性糖、デンプンの定量にはフェノ-ル硫酸法を用いた。
吸光度の二次微分値と、可溶性糖類、デンプン濃度および両者を合計した値(非構造性炭水化物:TNC)の対応を調べたところ、デンプン濃度は1927.8nm、可溶性糖類濃度は2473.4nm、TNC濃度は1927.8nmにおいて強い相関関係がみられた。
これらの結果は今後、他樹種での測定を行い、統計的手法を用いて検量線を作成・評価することで、近赤外分光法が樹木葉の可溶性糖類やデンプンを簡便かつ迅速に検出できる新しい手法となる可能性を示している。