ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-095
石塚航*,岡田桃子,後藤晋(東大・農学生命)
寒冷な気候に分布する植物は、秋の深まりとともに耐凍性を高め、冬期の凍害を回避する低温馴化を行うことが知られる。特に霜の訪れが早い山岳地域では、早くに耐凍性を獲得する必要がある。一方、低温馴化は成長休止を伴うため、凍害リスク回避と光合成成長期間の延長がトレ-ドオフとしてはたらく場合は、同一種内においても生育する気候の違いによって耐凍性の獲得タイミングを変化させることが適応的であると考えられる。北海道の主要樹種で分布域の広いトドマツは、標高に沿って成長形質が遺伝的に固定されていることが示されており、寒冷な高標高への適応に関わる耐凍性形質においても同様に遺伝的な変異がみられることが予想される。そこで本研究では、トドマツの耐凍性獲得タイミングが分布する標高によってどの程度遺伝的に固定されているかを調べた。
供試個体として、東京大学北海道演習林にある標高別相互植栽試験より、異なる3標高(230~1100m)の試験地に植栽した4標高(230~1200m)の集団に由来する合計66個体を選出した。2010年10~11月にかけて3回、供試個体より当年生枝を採取し、採取翌日に北海道大学低温研究所において-15°C、-30°Cの2処理で凍結試験を行った。解凍後、昼夜処理環境下におき、針葉の凍害割合を被害度として評価した。
その結果、初回の試験では2処理ともに凍害が現れ、-30°Cにおいて高い被害度を示したが、2回目では-15°Cにおいて、3回目では-30°Cでも全枝に凍害が現れず、時期を追って耐凍性が高まることが示された。また、初回のそれぞれの処理における被害度は、生育標高が高いほど、また由来標高が高いほど低くなる明瞭な傾向を示し、生育環境に適応するような遺伝的クラインが標高に沿って生じていることがわかった。遺伝子型と環境効果の大きさは同程度と推定され、耐凍性獲得に関して適応的な種内分化が進んでいることを示唆した。