ESJ58 一般講演(ポスタ-発表) P1-115
*神山千穂, 片渕正紀, 佐々木雄大, 嶋崎仁哉, 中静透, 彦坂幸毅 (東北大・院・生命科学)
環境と植物の特性は密接に関連している。群集内では、環境変化に伴う植物種の特性変化が、種間相互作用の変化を介して種組成の変化をもたらす。冷涼な気候条件の下に成立する湿原群集は、環境変化の影響を強く受ける生態系の一つとされる。青森県八甲田山系に点在する 27 の湿原を対象に、群集構造が環境によってどのように変化するかを調べた。湿原をとりまく環境は、主成分分析から、標高が異なることに伴う温度の勾配と、水分栄養塩の勾配の異なる2つの傾度によって説明された。群集特性を構成種の特性と被度から求め、これらの環境傾度に沿って群集特性がどう変化し、さらにその変化に対する構成種の入れ替わりと種内の特性変化の影響を評価した。気温の低い高標高では群集高が低下し、葉のサイズも減少した。これには、広い標高域に出現する優占種(落葉禾本型草本)の標高傾度に伴う特性変化が大きく影響していた。一方で、環境傾度に沿った種組成の変化も観察された。常緑種の出現種数は高標高の湿原で増加し、木本種の出現種数は栄養条件のよい湿原でやや増加した。総じて、高標高、貧栄養な環境に主な出現分布域を持つ種は、背丈が低く、小さくて厚い葉をもつ傾向があった。このような特性はストレス耐性として知られる一方で、背丈が高く生長速度が高い種に比べて種間競争に不利とされる。実際に、低標高では落葉種の背丈が増加するために、常緑種は落葉種によって強く被陰されており、環境傾度に伴う光をめぐる種間相互作用の変化が、低標高の常緑種の減少に影響していることを示唆している。